RNA干渉はその配列特異的な遺伝子発現抑制効果から、これまでに治療が困難であった病気への治療法として期待されているが、RNAの生体内不安定性がその妨げになっていました。 その問題を克服するために、私たちはRNAのナノ構造と生物活性の相関に注目しました。これまでに、図1に示すダンベル型ナノサークル構造を有するRNAデザインが、 天然RNA分子を生体内で安定化させ、かつ長期的なRNA干渉効果を有することを見出しました。本発見を契機として二本鎖環状RNAや分岐型RNAなどの様々な新規ナノ構造体を設計・構築し 、蛋白質翻訳や遺伝子発現抑制現象を見いだし、独自のRNAナノテクノロジー研究を展開している。
図3 環状RNAを用いた終わりのない回転式たんぱく質翻訳
通常のたんぱく質翻訳は開始コドンに始まり、ストップコドンに終わります。一方、ストップコドンを除いた環状RNAを用いてたんぱく質翻訳を行うと、終わりがないため原理的には永久にタンパク質合成が起こることになります。我々はこの「終わりのない回転式たんぱく質翻訳」現象がたんぱく質合成の効率を飛躍的に高めることを見出しました。詳しくはこのリンクをご参照ください。
図1 RNAイメージング法: RNA研究における基礎と応用
これまでに生細胞内RNAの存在を可視化・検出するための確立された方法はなかった。私たちのグループは、図1に示す独自に化学反応(求核置換反応や還元反応)に基づいて 蛍光発光する人口核酸プローブを開発し、細胞内RNAの定量的イメージング解析に成功した。本法の最大の特徴は、細胞内で化学的なシグナル増幅反応を起こすことにより、高感度な検出を可能とする点にある。
図2 RNAスプライシングの解析法: 診断・創薬へのアプローチ
本プローブを用いて、スプライシング反応のリアルタイム解析や世界で初めてのイントロン由来のラリアットRNAの直接検出に成功した(図2)。 フローサイトメーターを用いた細胞内RNAの定量解析にも成功している(図3)。
図3 フローサイトメーターを用いた生細胞内RNAを定量解析
図1 GST検出プローブの設計原理の確立:多様な検出シグナル
GSTは癌マーカーとしての診断標的や、抗癌剤開発のための創薬標的として期待されます。これまでに私たちはGSTの反応基質となることで脱保護される保護基(新規分子メカニズム)を考案し、 スウェーデン・カロリンスカ研究所のグループと共同でGSTを細胞内で直接イメージングできる蛍光プローブを開発した図1。さらに、プローブの癌診断法への応用可能性を明らかにしました 。独自の分子メカニズムに基づき様々なプローブ設計が可能になりました。例えばこれまでに、生物発光プローブ、MRIプローブや、抗癌剤のプロドラックを開発しました。これらプローブを用いて、 診断・創薬やケミカルバイオロジーへと大きな研究展開が可能となった。
図2 生体内GSTを検出する化学プローブ
図1水にしか溶けない核酸を有機溶媒に溶かす!
核酸分子は、生命現象を担う重要な生体分子であります。一方、人工的な系においても情報記録分子として、或いは有機反応触媒などの機能性分子として利用され始めています。 しかしながら、核酸は水にしか溶解しないため、人工的な系や、有機反応触媒に応用するためには大きな制限がありました。これまでに、我々は核酸の末端をポリエチレングリコールで化学修飾することで、 有機溶媒に完全に可溶化させることに成功しました。有機溶媒可溶化核酸を用いて、有機溶媒中でも核酸の高次構造が水中と同様に保たれることや、有機溶媒中の核酸構造の熱安定性が水中よりも 極めて高いことを見出しました。さらに、酸化反応を触媒するDNAzymeが有機溶媒中でも水中とほぼ同じ効率で触媒作用を示すことを明らかにした。これは有機溶媒中で機能する核酸分子に関する 初めての報告となりました。
図2 有機溶媒中で働く核酸触媒
また、進化分子工学的手法を用いて、核酸アプタマーや核酸触媒を開発することにも成功している。
図3 光ピンセットの開発
図1 ラジカルCグリコシル化反応の開発と医薬品候補化合物の合成
立体選択的なラジカルCグリコシル化反応を開発した。立体電子効果の一つである速度論的なアノマー効果を制御することで、ラジカル反応の立体選択性を制御することができる。 さらに、開発した有機合成反応を用いて細胞内Ca2+放出を調整する重要な細胞内情報伝達物質であるアデノホスチンAの誘導体を種々合成し、 Ca2+放出活性を制御している受容体の構造活性相関を明らかにした。また、様々な有機合成反応のメカニズムを実験・計算化学の両面から明らかにしてきた。